財形貯蓄は、給与から天引きでお金を積み立てる制度です。名前は知っていても、非課税の条件まで知っている人は多くありません。
天引きで貯まるなら楽そうだね。



楽ですが、条件があります。50代の方はとくに、55歳という期限に気をつけてください。
財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、55歳未満でないと契約できません。そして転職や積立の中断で、せっかくの非課税を失うこともあります。この記事では厚生労働省の公表資料をもとに、制度の中身と、非課税が消える条件を整理します。
私は社会保険労務士ではなく、人事の仕事をしている会社員です。財形制度の有無や商品は会社と金融機関によって異なるため、個別のご相談には応じられません。実際の手続は勤務先と契約先の金融機関でご確認ください。
- 財形貯蓄3種類のそれぞれの違い
- 非課税になる550万円という枠の中身
- 50代が気にすべき55歳という線
- 転職したときに積立を続ける方法
- 非課税を失ってしまう3つの場面
- 新NISAとどう使い分けるか
財形貯蓄制度の全体像


まず制度の形を押さえます。似た制度がいくつかあるので、どこが違うのかを先に整理すると迷いません。
給与天引きで積み立てる仕組み
財形貯蓄は、勤めている人が金融機関などと契約を結び、毎月の給与やボーナスからの天引きによって、会社を通じて積み立てていく貯蓄です。月々1,000円から始められます。
大事なのはお金の置き場所が金融機関だという点です。会社は天引きして振り込む役目を担うだけで、お金を預かるわけではありません。ここが次に説明する社内預金との決定的な違いになります。
3種類それぞれの違い
財形貯蓄には3つの種類があります。
| 種類 | 契約できる人 | 積立期間 | 目的 | 非課税 |
|---|---|---|---|---|
| 一般財形貯蓄 | 年齢制限なし(複数契約可) | 3年以上 | 使途自由 | なし |
| 財形年金貯蓄 | 55歳未満(1人1契約) | 5年以上 | 60歳以降に年金として受け取る | あり |
| 財形住宅貯蓄 | 55歳未満(1人1契約) | 5年以上 | 持家の取得または増改築等 | あり |
一般財形貯蓄は、目的を問わない普通の積立です。非課税の措置はありませんが、年齢制限がなく、何本でも契約できるのが特徴です。財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、使い道を決めるかわりに税金の優遇がついてきます。
社内預金との決定的な差
社内預金と混同されがちですが、性格はまったく違うものです。
| 比べる点 | 財形貯蓄 | 社内預金 |
|---|---|---|
| お金の預け先 | 金融機関 | 会社 |
| 利率 | 選んだ商品による | 年0.5%が法律上の下限 |
| 会社が倒産したとき | 直接の影響を受けにくい | 保全措置の内容しだい |
| 税金 | 年金と住宅は550万円まで非課税 | 利子は20.315%課税 |
金利だけを比べると社内預金が有利でしょう。ただし預け先が会社そのものなので、リスクの中身が違います。両方ある会社なら、性格の違いで分けて考えてください。


非課税になる550万円の枠


財形貯蓄でいちばん語られるのが非課税の枠です。ここは誤解されやすいので、順を追って確認します。
対象は財形年金と財形住宅だけ
非課税になるのは財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄の2つだけです。一般財形貯蓄に税金の優遇はありません。使途自由なかわりに、利息からは通常どおり20.315%が引かれます。
内訳は所得税15%、復興特別所得税0.315%、住民税5%。銀行の定期預金と同じ扱いです。
2つ合わせて元利合計550万円
非課税の枠は、財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄をあわせて元利合計550万円までです。それぞれに550万円ずつあるわけではありません。
財形年金貯蓄のうち、郵便貯金、生命保険または損害保険の保険料、生命共済の共済掛金、簡易保険の掛金等に係るものについては、払込ベースで385万円が限度になります。
非課税になるのは「利子等」です。元本550万円が非課税になるという意味ではなく、その550万円から生まれた利息に税金がかからない、という制度です。財形年金貯蓄については、年金の支払が終わるまで非課税措置が続きます。
金利が上がって効き始めた節税額
ではいくら得なのか。金利しだいで答えが変わります。
日本銀行が公表している平均年利率で計算してみます。2022年4月の1年定期は0.004%でした。550万円を預けても利息は220円、税金は45円ほどです。この時代、非課税の枠に意味はほとんどありませんでした。
2026年9月の平均は0.472%です。550万円なら利息は約2万5,960円、浮く税金は約5,270円になります。金利が上がったことで、ようやく効き始めた制度だといえます。
思ったより小さい数字だね。



そうなんです。だから財形は「投資の代わり」ではなく「貯金の置き場」と考えたほうがいいんです。
※金利は2026年9月時点の値です。金利は変動するため、非課税で浮く税金の額も上下します。試算は目安としてご覧ください。
転職したときの取り扱い


ここからが本題です。私は転職を5回して今は6社目ですが、会社を変わるときにいちばん見落とされやすいのが、この財形の手続だと感じています。
転職先に制度がなければ続けられない
財形貯蓄は給与天引きが前提の制度です。そのため転職先に財形貯蓄制度がなければ、積立を続けられません。退職や役員就任などで勤労者でなくなった場合も、新たな積立はできなくなります。
転職を考えているなら、求人票や内定後の労働条件の確認のときに、財形制度の有無を見ておいてください。
勤務先異動申告書という手続
転職先に制度があれば続けられます。必要なのは「勤務先異動申告書」の提出など、所定の手続です。黙っていて自動的に引き継がれるものではありません。
新しい勤務先で同じ金融機関を扱っていない場合でも、道はあります。退職等の日から2年以内であれば、別の金融機関に預け替えて積立を継続できます。
2年以内という期限
この2年という数字が、転職時のいちばんの落とし穴です。
- 転職先に制度がある → 勤務先異動申告書などの手続で継続できる
- 転職先に同じ金融機関がない → 退職等の日から2年以内なら預け替えて継続できる
- 2年を過ぎた → 財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は非課税措置を受けられなくなる
転職直後はやることが多く、財形の手続は後回しになりがちです。2年あると思っていると、気づいたときには過ぎています。退職が決まったら、先に金融機関へ連絡しておくのが安全です。
非課税を失う3つの場面


転職以外にも、非課税が消える場面があります。知らずに踏んでしまうことが多いので、3つに整理しました。
2年間積立が止まったとき
財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、最後の給与天引による預入日から次の預入等が無いまま2年が経過すると、利子等に対する非課税措置が受けられなくなります。
休職や出向、給与体系の変更などで天引きが止まると、本人が気づかないうちに時計が進んでいきます。一般財形貯蓄については、中断そのものに法令上の特段の制限はありません。ただし契約の定めで期間の制限がある場合があるので、そこは金融機関の約款を確認してください。
目的以外に引き出したとき
財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄を目的外で払い出すと、基本的には利子等が課税の対象になります。一般財形貯蓄には払出しの制限がなく、理由によらず引き出せる点が違います。
ただし例外として認められている理由もあるのです。次の理由による払出しは、税務署から確認を受けることで非課税のまま引き出せる扱いです。
- 本人または生計を一にする親族が所有する家屋が災害等による被害を受けた場合
- 本人または生計を一にする親族に対して支払った医療費の年間合計額が200万円を超えた場合
- 本人が所得税法上の一定の寡婦または寡夫に該当することとなった場合
- 本人が所得税法上の特別障害者に該当することとなった場合
- 本人が雇用保険の特定受給資格者または特定理由離職者に該当することとなった場合
最後の項目は、会社都合の離職や、やむを得ない理由での離職が当てはまります。人事の窓口でもあまり知られていない例外です。
退職して一定期間が過ぎたとき
退職して勤労者でなくなると、新たな積立はできません。財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、退職後に一定期間が経過すると課税扱いになります。
解約するかどうか、いつまで置いておけるかは契約の定めによります。セミリタイアや早期退職を考えているなら、辞める前に「退職後はどうなるのか」を金融機関に聞いておいてください。
財形と新NISAの使い分け


2024年に新しいNISAが始まってから、財形貯蓄をどう位置づけるかが分かりにくくなりました。役割で分けると整理できます。
非課税の中身がそもそも違う
同じ「非課税」でも、対象が違います。
| 比べる点 | 財形年金・財形住宅 | 新NISA |
|---|---|---|
| 非課税になるもの | 利子等 | 配当と売却益 |
| 枠の大きさ | 2つ合わせて元利合計550万円 | 生涯投資枠1,800万円 |
| 元本 | 商品によるが預貯金型なら安定 | 値動きする |
| 引き出し | 目的外は原則課税 | いつでも自由 |
財形は貯金の枠、新NISAは投資の枠です。どちらかを選ぶものではなく、置くお金の性格で分かれます。
住宅資金なら財形住宅が向く
数年以内に家を買う、あるいはリフォームする予定があるお金は、値動きする商品に置けません。その用途なら財形住宅貯蓄が素直な選択になります。
払い出せる住宅の要件も決まっています。床面積は40平方メートル以上。中古住宅の場合、耐震構造であれば築年数の要件はなく、耐震構造でないものは昭和57年1月1日以後に建築されたものが対象です。増改築なら、消費税を含めた工事費用が75万円を超えることが条件になります。
人事から見た優先順位
制度を説明する立場から見た順番はこうです。
- 生活費の半年分を、すぐ下ろせる銀行口座に置く
- 新NISAとiDeCoで、値上がり益の非課税枠を先に使う
- 5年以内に使い道が決まっているお金を、財形住宅や財形年金に置く
- 社内預金や持株会は、あわせて金融資産の1割まで
財形を2番目ではなく3番目に置いたのは、非課税になる額が年5,000円ほどだからです。長い目で見れば、運用益が非課税になる枠のほうが効きます。




財形貯蓄のよくある質問


人事の窓口で聞かれることの多い質問を5つ挙げます。
自分の会社にあるか調べる方法
給与明細の控除欄に「財形」という項目があるかを見てください。導入されていなければ利用できません。
財形貯蓄を職場に入れるには、賃金から控除するための労使合意が必要です。会社に制度がない場合は、人事や福利厚生の担当者に相談することになります。
いくらから始められるのか
月々1,000円から積み立てられます。厚生労働省も制度のメリットとして挙げている点です。
金額の変更や積立の中断ができるかどうかは、契約した金融機関の商品によります。始める前に、変更の可否と手続の方法を確認しておいてください。
パートや契約社員でも使えるのか
使えます。事業主に雇用される者であれば利用でき、雇用形態や就業形態による限定はされていません。
ただし財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄については、勤務先に「給与所得者の扶養控除等申告書」を提出している勤労者であることが要件です。いわゆる本業として働いている会社で使う制度だと考えてください。
育児休業中はどうなるのか
一般財形貯蓄は、育児休業中でも給料が支給されていれば天引きを続けられます。賃金の支払いがない場合は中断です。
財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄には、専用の手続が用意されているのです。産前産後休業および3歳未満の子に係る育児休業については、開始前に「育児休業等をする場合の非課税継続適用申告書」を提出し、終了後、契約上最初の積立を行うべき日に積立を再開すれば、非課税のまま継続できます。
海外赴任になったらどうなるのか
一般財形貯蓄は、海外転勤中でも国内払いの賃金があれば天引きで続けられる仕組みです。
財形年金貯蓄と財形住宅貯蓄は、1年以上海外に住むことになると、出国中は非課税での積立を続けられません。出国する日までに「海外転勤者の財形非課税住宅貯蓄・年金貯蓄継続適用申告書」を出せば、最大7年間、非課税措置を受けたまま積立を中断できます。帰国後は、帰国の日から2か月以内に「国内勤務申告書」を出せば非課税で再開できる流れです。
まとめ


財形貯蓄について、この記事で確認したことを整理します。
- 種類は3つ。一般財形は使途自由で年齢制限なし、財形年金と財形住宅は55歳未満が契約要件
- 非課税になるのは財形年金と財形住宅の2つあわせて元利合計550万円から生ずる利子等
- 金利0.472%なら、550万円で浮く税金は年5,270円ほど
- お金の置き場所は金融機関。会社に預ける社内預金とは性格が違う
- 転職しても、転職先に制度があれば勤務先異動申告書などの手続で継続できる
- 2年間預入が止まる、目的外で払い出す、退職後一定期間が過ぎる、の3つで非課税を失う
- 新NISAは投資の枠、財形は貯金の枠。役割で分ける
50代にとっては55歳という契約の期限がいちばん大きな話です。財形年金貯蓄や財形住宅貯蓄を使う予定があるなら、誕生日が来る前に決める必要があります。会社に制度があるかどうかは、給与明細を見ればすぐ分かります。
まず給与明細を見てみるよ。



それが一番早いです。制度があるのに使っていない人、意外と多いですから。
会社の制度をどう組み合わせるかは、退職金や年金の受け取り方ともつながる話です。こちらもあわせてご覧ください。




