投資を始めようとすると、必ず出てくるのが生活防衛資金という言葉です。ただ「何か月分あればいいのか」は人によって言うことが違います。
3か月分とも半年分とも言われるけど、どっちが正しいの。



正解は決まっていません。でも、公的な給付が出るまでの空白から逆算すれば、自分の必要額は出せます。
収入が止まっても、会社員には失業給付や傷病手当金があります。ただしどちらもすぐには振り込まれません。その空白を埋めるお金が生活防衛資金です。
人事の仕事で退職や休職の手続きに関わってきた立場から、制度のどこに空白ができるのかを、法令と協会けんぽの公表内容で確認しながら整理します。
私は社会保険労務士ではなく、人事の仕事をしている会社員です。給付の条件は個別の事情で変わるため、実際の取扱いはハローワークや加入している健康保険でご確認ください。
- 生活防衛資金が何のためのお金か
- 会社を辞めてから給付が出るまでの空白
- 病気で働けないときの空白
- 空白から逆算した必要額の考え方
- どこに置いておけばよいか
- 50代がとくに気をつける点
生活防衛資金の役割


まず何のためのお金なのかを押さえます。ここがあいまいだと、金額も決まりません。
収入が止まったときの時間を買う
生活防衛資金は、文字どおり生活を守るためのお金です。病気やけがで働けなくなったり、仕事を失ったりしたときに、収入が途切れても暮らしを続けるために使います。
大事なのは金額そのものより、落ち着いて次を決める時間が買えることだと思っています。お金がないと、条件の悪い仕事でもすぐ決めるしかありません。手元に数か月分あれば、その場しのぎの判断をしなくて済みます。
投資のお金とは分けて考える
生活防衛資金は、増やすためのお金ではありません。減らないこと、すぐ使えることの2つだけを満たせば役目を果たします。
投資に回すお金と同じ口座に入れておくと、相場が下がったときに取り崩すかどうかで迷うことになります。役割が違うお金なので、置き場所から分けておくほうが判断が楽です。
まず1か月の生活費を把握する
金額を決める前にやることがあります。自分の家の1か月の生活費がいくらかを知ることです。ここが分からないと、何か月分という話ができません。
最低でも次の項目について、1か月いくらかかっているかを出してみてください。
- 家賃または住宅ローン
- 食費
- 通信費
- 教育費
- 光熱費
- 交通費
家族の人数や住んでいる場所で大きく変わるところです。数か月分の家計簿か、口座とカードの明細を並べれば見えてきます。
会社を辞めたときの空白


では実際に収入が止まると、いつからお金が入るのか。まずは会社を辞めた場合です。
待期7日と給付制限1か月
失業給付(基本手当)は、辞めた翌日から出るわけではありません。まずハローワークで求職の申し込みをして、そこから失業している日が通算7日になるまでは支給されません。これを待期といいます。
自己都合で辞めた場合は、この待期のあとにさらに給付制限がつくのです。雇用保険法では「1か月以上3か月以内で公共職業安定所長の定める期間」と決められています。
2025年4月に短くなった制限
ここは最近変わったところです。2025年4月1日以降に離職した方は、給付制限が原則1か月に短縮されました。それ以前は原則2か月でした。
さらに、教育訓練等を自分で受ける場合は給付制限が解除される仕組みもできています。辞めたあとに学び直しをするなら、この扱いを確認する価値があります。
会社都合で辞めた場合は、そもそも給付制限がありません。待期の7日が明ければ支給の対象になります。
もらえる日数は勤続年数で決まる
いつまでもらえるかは、雇用保険に入っていた期間で決まります。自己都合で辞めた場合の日数を見てください。
| 雇用保険に入っていた期間 | もらえる日数 |
|---|---|
| 20年以上 | 150日 |
| 10年以上20年未満 | 120日 |
| 10年未満 | 90日 |
長く勤めた人ほど長くもらえる仕組みです。ただし日数が長いことと、生活が成り立つことは別の話です。次の章でその理由を書きます。
病気で働けないときの空白


もう一つの場面が、病気やけがで働けなくなったときです。こちらは健康保険から傷病手当金が出ます。
3日待って4日目から
傷病手当金は、連続する3日間の待期を含めて、4日以上仕事に就けなかったことが条件になります。つまり休み始めてすぐには出ません。
しかも、条件を満たせば自動で振り込まれるものではありません。会社と医師の証明をつけて申請する手続きが必要です。人事の窓口でも、ここでつまずく方をよく見てきました。
1日あたりの計算式
いくらもらえるかは決まった式で計算します。
支給開始日以前の12か月間の各標準報酬月額を平均した額を30で割り、その3分の2を掛けた額が1日あたりの金額です。
ここで気づいてほしいのが3分の2という数字です。給料が満額入ってくるわけではありません。残りの3分の1は、自分の蓄えで埋めることになります。
通算1年6か月という上限
傷病手当金がもらえるのは、支給を開始した日から通算して1年6か月です。以前は期間内に復職と休職を繰り返すと目減りしましたが、通算で数える形になったので、途中で復帰しても残りを使えます。
1年6か月というと長く感じますが、待期の3日と申請から振込までの時間は自分でしのぐ必要があります。


空白から逆算した金額


ここまでの制度を並べると、必要な金額の考え方が見えてくるはずです。
給付が出るまでの月数
収入が止まってから給付が始まるまでの空白を整理します。
| 場面 | 給付までの空白 | 備考 |
|---|---|---|
| 自己都合で退職 | 待期7日+給付制限1か月 | 2025年4月1日以降に離職した場合 |
| 会社都合で退職 | 待期7日 | 給付制限なし |
| 病気やけがで休職 | 待期3日 | 申請の手続きが必要 |
制度上の空白だけなら1か月ちょっとです。ただしこれは「支給の対象になる日」の話で、実際に口座へ振り込まれるまではさらに時間がかかります。
手取りが満額にならない点
もう一つ見落としやすいのが、給付の金額です。どちらの制度も、働いていたときの収入がそのまま入るわけではありません。
- 失業給付は賃金日額の50%が基本(給料が低い層ほど率が上がり、最大80%)
- 離職日に60歳以上65歳未満の場合は45%から80%の範囲
- 傷病手当金は標準報酬月額の平均を日割りした額の3分の2
つまり給付が始まったあとも、毎月いくらかは持ち出しになります。空白の1か月分だけ用意しても足りない、というのはこのためです。
50代が上乗せすべき理由
50代はもう一つ事情が加わります。再就職までにかかる時間です。
もらえる日数が150日あっても、その間に次が決まらなければ収入がゼロに戻ります。住宅ローンや教育費が重なる時期でもあるでしょう。
こうした事情を足し合わせて、私は生活費の半年分を目安にしています。最低ラインは2か月分、余裕を持つなら半年分、という見方です。このブログの他の記事でも、同じ半年分という基準で書いています。


教育費がいくらかかるのかは、別の記事に公的データでまとめています。


置き場所の決め方


金額が決まったら、次は置き場所です。ここは難しく考える必要がありません。
すぐ下ろせる銀行に置く
生活防衛資金は、必要になったその日に引き出せることが条件です。銀行の普通預金で十分だと思っています。
利息はほとんどつきませんが、それでかまいません。このお金の役目は増えることではなく、いつでも動かせることだからです。
生活費の口座とは分ける
おすすめは、普段の生活費とは別の口座にしておくことです。同じ口座に入れておくと、残高が多く見えて使ってしまいます。
銀行を分けておけば、口座を開いた瞬間に「これは使わないお金だ」と思い出せるでしょう。地味ですが効きます。
投資や会社の制度に混ぜない
投資信託や株は値動きするので、この用途には向きません。必要になったときに下がっていたら、損を確定させて売ることになります。
会社の制度も同じです。社内預金や企業型DCは、思い立ってすぐ引き出せる仕組みではありません。利率や税の優遇があっても、生活防衛資金の置き場としては別に考えてください。


生活防衛資金のよくある質問


人事の窓口や、投資の話をしているときによく聞かれることをまとめました。
何か月分あればいいのか
私は生活費の半年分を目安にしています。制度上の空白だけなら1か月ちょっとですが、給付が満額でないことと、50代は再就職に時間がかかることを足すとこうなります。
ひとり暮らしで支出が小さい方なら、もっと短くても回るかもしれません。家族を養っている方は多めに見ておくほうが安心です。
ボーナスで一度に貯めてもいいか
かまいません。むしろそのほうが早く貯まります。毎月の給与から少しずつ積むより、まとまったお金が入ったときに先に取り分けるほうが確実です。
貯まるまで投資は待つべきか
私は先に生活防衛資金だと考えています。順番を逆にすると、相場が下がった局面で生活費のために売ることになりかねません。
ただし全額そろうまで一切投資しない、というほど厳密にしなくてもよいと思います。半年分のうち3か月分まで貯まったら、少額から積立を始めるくらいの進め方で十分です。


退職金は生活防衛資金になるか
性格が違うお金になります。退職金は老後の生活費や住宅ローンの返済にあてる前提で考えている方が多いはずです。
それに退職金は、辞めるまで手元にありません。在職中に起きる病気や休職には使えないので、生活防衛資金は別に用意しておく必要があります。
使ってしまったらどうするか
使うために用意したお金なので、使ったこと自体は問題ありません。大事なのは、使ったあとに戻すことです。
収入が戻ったら、投資の積立より先に生活防衛資金の回復にあててください。ここが薄いままだと、次に何かあったときに投資の資産を取り崩すことになります。
まとめ


生活防衛資金について、この記事で確認したことを整理します。
- 役割は、収入が止まったときに落ち着いて次を決める時間を買うこと
- 自己都合で辞めると、待期7日に加えて給付制限がつく
- 給付制限は2025年4月1日以降の離職で原則1か月に短縮された
- 失業給付は賃金日額の50%が基本。満額は入らない
- 傷病手当金は待期3日のあと、標準報酬月額の平均を日割りした額の3分の2
- 傷病手当金がもらえるのは支給開始日から通算1年6か月
- 目安は生活費の半年分。すぐ下ろせる銀行に、生活費とは別の口座で置く
金額に絶対の正解はありません。ただ制度の空白から逆算すれば、自分の数字は出せます。まずは1か月の生活費を出すところから始めてください。
何か月分かで悩むより、まず生活費を数えるほうが先だね。



そうです。そこが分からないと、何か月分という話自体ができませんから。
生活防衛資金を確保できたら、次は非課税の枠をどう使うかです。こちらもあわせてご覧ください。




