定年で会社を辞めるとき、健康保険をどうするかを自分で決める必要があります。しかも期限が短く、迷っているうちに選べる道が減っていきます。
先に結論です。まず「再雇用で働き続けるか」で分かれます。続けて働くなら、健康保険はそのままです。完全に辞める場合だけ、3つの中から選びます。
会社がいいほうを選んでくれるんじゃないの。



そこが誤解されやすいところです。人事がするのは制度の説明までで、決めるのは本人なんです。
人事として定年前の説明をしてきた立場から、判断するときに見る場所をまとめました。制度の内容は協会けんぽの公表資料で確認しています。
私は社会保険労務士ではなく、人事の仕事をしている会社員です。制度についての個別のご相談には応じられません。実際の金額や手続きは、勤務先や協会けんぽ、お住まいの市区町村にご確認ください。
- 退職後の健康保険は3択であること
- 任意継続の保険料の決まり方と上限
- 扶養家族がいる場合にどちらが不利か
- 再雇用で働き続ける場合の扱い
- 20日という期限の意味
会社は決めてくれない


最初に押さえておきたいのが、ここです。定年前の説明を受けても、答えは出てきません。
人事がするのは説明まで
会社の人事は、制度の内容と手続きの方法を説明します。ただし「あなたはこちらにすべきです」とは言いません。
どちらが得かは、家族構成と前年の所得で変わるからです。個人の事情に踏み込んで判断することは、会社の立場ではできません。
20日という期限がある
任意継続を選ぶ場合、手続きの期限は退職日の翌日から20日以内と決まっています。
この期間を過ぎると、任意継続は選べなくなります。残るのは国民健康保険か、家族の扶養に入るかの2つです。
先に調べておく理由
20日というのは、退職の前後で最も慌ただしい時期です。そこから市区町村に問い合わせて国保の保険料を調べ、比べて決めるには短すぎます。
だからこそ、在職中のうちに考え方だけでも整理しておくと安心でしょう。
退職後の健康保険は3択


協会けんぽの説明では、選択肢は3つとされています。まず全体像を見ておきましょう。
| 任意継続 | 国民健康保険 | 家族の扶養 | |
|---|---|---|---|
| 手続き先 | 協会けんぽ支部 | お住まいの市区町村 | 家族の勤務先 |
| 保険料 | 退職前の2倍(上限あり) | 世帯人数と前年の所得 | かからない |
| 家族の分 | かからない | 人数分かかる | かからない |
| 期限 | 退職日の翌日から20日以内 | — | — |
| 使える期間 | 2年間 | 制限なし | 条件を満たす間 |
協会けんぽの「任意継続(退職後の健康保険)」の記載をもとにまとめました。健康保険組合に加入していた場合は、組合の規約によって条件が異なります。
家族の扶養が使えるなら一番安い
保険料の負担がないので、条件を満たすなら最も有利です。ただし収入の要件があり、誰でも入れるわけではありません。
配偶者や子どもが会社員として働いているなら、まずその勤務先に条件を確認してみる価値があります。
残る2つをどう比べるか
扶養に入れない場合、任意継続と国民健康保険の比較になります。ここが本題です。
任意継続の保険料の決まり方


名前のとおり、退職前の健康保険を任意で継続する制度です。加入には条件があります。
保険料は2倍になる
在職中の保険料は、会社と本人が半分ずつ負担しています。退職すると会社の負担分がなくなるため、本人が払う額は単純に2倍になるわけです。
給与明細に載っていた健康保険料の2倍が、おおよその目安です。40歳から64歳の方は、これに介護保険料が加わります。
32万円という上限がある
ここが知られていない点です。保険料は退職時の標準報酬月額で計算されますが、32万円を超えていた場合は32万円で頭打ちになります。
標準報酬月額は、保険料を決めるための基準になる額です。つまり退職前の給料が高かった人ほど、単純な2倍より抑えられる形になります。
2年間と、途中でやめる方法
使える期間は2年間です。そして2022年から、本人が申し出ればいつでもやめられるようになりました。
以前は自分の意思では抜けられませんでした。いまは1年目は任意継続、2年目は国保に切り替えるという選び方もできます。
保険料は原則として2年間変わりません。前納すると割引になる制度もあります。
国民健康保険との違い


では国民健康保険はどう決まるのか。仕組みが違うため、比べる軸が変わります。
家族の人数で変わる
協会けんぽの説明では、国民健康保険の保険料は「加入する世帯の人数や、前年の所得など」で決まるとされています。
つまり扶養している家族がいる場合、その人数の分だけ国保は高くなるという仕組みです。
一方の任意継続では、被扶養者の保険料負担はありません。ここが2つを分ける一番大きな違いです。
前年の所得で決まる
もうひとつの特徴が、前年の所得をもとに計算されることです。
退職した年は、まだ働いていた年の所得で保険料が決まります。収入が下がっているのに保険料は高い、という状態になりやすいのです。
どちらが安くなるか
条件で変わるため、断定はできません。傾向として言えるのは次の点です。
| 状況 | 有利になりやすいほう |
|---|---|
| 扶養している家族がいる | 任意継続 |
| 退職前の給料が高かった | 任意継続(32万円で頭打ちのため) |
| 独身で前年の所得が低い | 国民健康保険 |
| 退職から2年以上先も考える | 国民健康保険(任意継続は2年まで) |
国保の保険料は市区町村ごとに違い、減免の制度もあります。最終的には、お住まいの市区町村で試算してもらうのが確実です。
再雇用で働き続ける場合


ここまでは完全に退職する場合の話です。同じ会社で再雇用されるなら、前提が変わります。
健康保険はそのまま続く
再雇用で働き続けるなら、会社の健康保険にそのまま入ったままです。3択を考える必要はありません。
ただし勤務時間が短くなると、加入の条件から外れる場合があります。週にどれくらい働くかは、条件を確認しておきたい点です。
同日得喪で保険料を早く下げる
再雇用では給料が下がることが多いところです。ところが保険料は、通常だと数か月分の給料を見てからでないと変わりません。
60歳以上の人が定年で退職し、1日も空けずに再雇用された場合は、会社が再雇用した月から標準報酬月額を決め直せます。下がった給料に合わせて、保険料をすぐ下げられるということです。
手続きをするのは会社です。再雇用の話をするときに、人事へ確認してみてください。
将来の年金は下がる
ただし良いことばかりではありません。標準報酬月額は、将来の厚生年金を計算するときにも使われる数字です。
保険料が下がるということは、年金に反映される額も下がるということになります。手取りを優先するか、将来を優先するかという話です。
再雇用で給料がどれくらい下がるかは、別の記事にまとめました。


間違えやすい点


人事として説明してきた中で、行き違いが起きやすいところを挙げます。
20日を過ぎると選べない
もっとも多いのがこれです。期限は退職日の翌日から20日以内で、延長はできません。
郵送で申請する場合は、20日以内に届く必要があります。締め切り間際になると、郵送の日数まで考えることになります。
健康保険組合は条件が違う
この記事で挙げた32万円の上限などは、協会けんぽの場合の数字です。
勤務先が健康保険組合に加入している場合、上限や保険料の決まり方が組合の規約で変わります。まず自分がどちらに入っているかを確認してください。
領収証書は捨てない
任意継続で払った保険料は、確定申告のときに社会保険料控除として使えます。
納付したときの領収証書が必要になりますが、再発行ができません。1年分をまとめて保管しておいてください。
よくある質問


定年前の説明でよく出る質問をまとめました。
任意継続と国保はどちらが得ですか
家族構成と前年の所得で変わるため、一律には決まりません。扶養している家族がいるなら任意継続が有利になりやすい、というのが傾向です。
任意継続の保険料はいくらですか
退職時の標準報酬月額に、お住まいの都道府県の保険料率をかけて計算します。都道府県で率が違うため、金額は協会けんぽの支部で確認してください。
あとから国保に変えられますか
2022年から、本人が申し出れば任意継続をやめられるようになりました。1年目は任意継続、2年目は国保という使い方もできます。
2年たったあとはどうなりますか
任意継続は2年で終わります。そのあとは国民健康保険に入るか、家族の扶養に入るかの選択です。なお75歳からは、全員が後期高齢者医療制度に移ります。
家族の扶養に入る条件は何ですか
条件は加入している健康保険ごとに決められています。収入の要件があるため、家族の勤務先に確認するのが確実でしょう。
手続きは会社がやってくれますか
任意継続の申請は本人が協会けんぽへ行います。会社が代行するものではありません。再雇用で働き続ける場合の手続きは会社が行います。
まとめ


健康保険の選択は、退職の手続きの中でも見落とされやすいところです。会社は説明はしますが、決めてはくれません。
- まず「再雇用で働き続けるか」で分かれる
- 完全に退職するなら、任意継続・国保・家族の扶養の3択
- 任意継続の保険料は退職前の2倍。ただし標準報酬月額32万円が上限
- 扶養している家族がいると、国保は人数の分だけ高くなる
- 任意継続の期限は退職日の翌日から20日以内。延長はできない
- 再雇用なら同日得喪で保険料を早く下げられるが、将来の年金も下がる
在職中のうちに、自分がどちらに当てはまりそうかを考えておく。それだけで、退職の前後の慌ただしさがひとつ減ります。
20日しかないなら、先に調べておかないと間に合わないね。



そうなんです。金額の比較は退職後でも、考え方だけは今のうちに持っておいてください。
退職金の受け取り方についても、人事の立場からまとめています。


会社に残っても辞めてもいい状態をつくる、という考え方の全体像はこちらです。


人事に何を聞いていいのかは、こちらに書きました。


