60歳を過ぎても、今の会社で働き続けるつもりでいる。でも再雇用になったら、給料はいったいどれくらい下がるのか。50代に入ると、この不安が急に現実味を帯びてきます。
私は人事として、再雇用の給与計算や手続き、定年前の説明の場、制度の見直しに関わってきました。そこで本人から必ずと言っていいほど聞かれるのが、賞与と高年齢雇用継続給付の2つです。
結論から言うと、公的な調査では、60歳以降も同じ会社で働く人の賃金は平均的な人で約2割減です。再雇用が中心の60歳定年の会社に限ると約4分の1減で、下がり幅は会社の定年年齢や規模で大きく変わります。給付金も2025年から縮小しました。この記事では、公的な調査と制度をもとに、人事の立場から見た現実と50代のうちにできる備えをまとめます。
- 再雇用で給料が下がる実際の幅
- 賞与が大きく変わる理由
- 給付金の縮小と計算の落とし穴
- 下がりすぎが違法になる場合
- 50代のうちにできる備え
再雇用って、給料が半分くらいになるって聞いたけど本当なの。



平均では約2割減、60歳定年の会社では約4分の1減です。ただ会社によって差が大きく、賞与の扱いで年収は想像以上に変わります。
再雇用後の給料の実態


まずは感覚ではなく、公的な調査の数字から確認しましょう。労働政策研究・研修機構が2020年に公表した企業調査では、60歳まで正社員で働き、その後も同じ会社にフルタイムで雇われている人の賃金を調べています。平均だけを見ても、自分の会社の下がり幅は分からないというのが、この調査のいちばん大事なポイントです。
平均的な人で約2割減
60歳直前の年間賃金を100としたとき、61歳時点の賃金は次のとおりでした。ここでいう賃金は、月給と賞与を合わせた年間の額です。
| 区分 | 61歳時点の賃金 |
|---|---|
| 最も高い水準の人 | 89.6 |
| 平均的な水準の人 | 78.7 |
| 最も低い水準の人 | 70.8 |
出典:労働政策研究・研修機構「高年齢者の雇用に関する調査(企業調査)」2020年。60歳直前の賃金を100とした指数。2019年5〜6月に企業へ行った調査で、同一労働同一賃金のルールや給付金縮小の前の数字です。対象には65歳定年や定年なしの会社も含まれます。
平均的な人で約2割、低い人では約3割減っています。「半分になる」という話もよく聞きますが、それは平均より下がり幅が大きい会社の例だと考えてください。
定年年齢で変わる下がり幅
同じ調査を定年の年齢別に見ると、差がはっきり出ます。60歳定年の会社ほど、定年を境に賃金を大きく下げていることが分かります。
| 定年の定め | 61歳時点の賃金(平均的な人) |
|---|---|
| 60歳定年 | 75.2 |
| 61〜64歳定年 | 86.6 |
| 65歳定年 | 90.2 |
| 66歳以上の定年 | 92.0 |
| 定年なし | 83.8 |
60歳定年の会社の61歳は、定年後の継続雇用の期間で、その多くは再雇用です。一方で65歳定年の会社の61歳はまだ定年前なので、下がり幅が小さく出ます。再雇用の実態に近いのは60歳定年の75.2で、約4分の1減と考えておくのが現実的でしょう。
大企業ほど下がる傾向
意外に思われるかもしれませんが、従業員数が多い会社ほど下がり幅は大きいという結果です。
| 従業員数 | 61歳時点の賃金(平均的な人) |
|---|---|
| 100人未満 | 80.5 |
| 100〜299人 | 78.2 |
| 300〜999人 | 74.7 |
| 1,000人以上 | 70.9 |
調査では理由までは示されていません。人事の立場から見ると、大きな会社ほど年齢とともに賃金が上がる仕組みが強く、定年で再雇用者用のルールに切り替わったときの落差が大きくなると考えられます。業種では医療・福祉が84.7、運輸業が84.0と比較的小さく、金融・保険業は72.1と大きく下がっていました。
給料と賞与が下がる理由


仕事の中身がほとんど変わらないのに、なぜ給料は下がるのか。人事の立場から見ると、理由は「定年で雇用の前提そのものが変わる」ことに尽きます。とくに面談で一番多く質問される賞与は、会社ごとの差がもっとも大きい部分です。
定年で雇用契約が切り替わる
多くの会社では、60歳の定年でいったん退職し、翌日から嘱託や契約社員として新しい契約を結びます。正社員の賃金表から外れ、再雇用者用のルールで賃金が決まる仕組みです。
役職も外れるため、役職手当はなくなります。家族手当や住宅手当などが、再雇用者には支給されない会社も少なくありません。
賞与は面談でいちばん聞かれる
再雇用の説明の場で、本人から真っ先に聞かれるのが賞与です。月給の下がり幅は想像していても、賞与がどうなるかまでは知らない人が多いからでしょう。
再雇用後の賞与は、支給しない、少額の一時金にする、正社員と同じ算定式で支給するなど、会社によって扱いがまったく違います。月給が同じくらいでも、賞与の扱いひとつで年収は大きく変わります。自分の会社がどれに当たるかは、就業規則や再雇用の規程で必ず確認してください。
会社が賃金を決めるときの基準
先ほどの調査では、再雇用者の賃金を決めるときに何を考慮しているかも聞いています。半数近くの会社が「60歳到達時の賃金水準」を、ほぼ同じ割合の会社が「個人の知識、技能、技術」を挙げていました。
一方で、「業界他社の状況」や「職務の市場賃金」を考慮する会社は2割ほどにとどまります。また1割強の会社は「高年齢雇用継続給付の受給状況」を考慮に入れていました。給付金をもらえる前提で賃金を決める会社もある、ということです。
高年齢雇用継続給付の縮小


賞与と並んで面談でよく聞かれるのが、高年齢雇用継続給付です。再雇用で下がった給料の一部を雇用保険から補ってくれる制度ですが、2025年4月から中身が変わりました。今の50代は、全員が縮小後の制度の対象になるので、古い情報のまま計算しないよう注意してください。
給付金の仕組み
対象になるのは、雇用保険の被保険者期間が5年以上ある60歳以上65歳未満の人です。60歳以降の月々の賃金が、60歳時点の賃金と比べて75%未満に下がった状態で働き続けると支給されます。
申請は原則として2か月に一度で、会社を通じて行うのが一般的です。支給される期間は、60歳に達した月から65歳に達する月までになります。給付金に税金はかかりませんが、雇用保険の被保険者であり続けることが前提で、週20時間未満の短時間勤務で再雇用されると対象から外れます。
最大15%から10%へ
60歳になった日が2025年3月31日以前の人は、下がった月給の最大15%が支給されていました。2025年4月1日以降に60歳になる人は、最大10%に縮小されています。
| 60歳時点と比べた月給 | 支給額(2025年4月以降に60歳) |
|---|---|
| 64%以下 | その月の賃金の10% |
| 64%超75%未満 | 10%より少ない額(下がり幅に応じて減る) |
| 75%以上 | 支給なし |
1965年4月1日以前に生まれた人までが従来の15%の対象でした。いま50代の人は、全員が10%の制度で計算することになります。国は給付金を段階的に縮小して廃止する方向を示しており、廃止の時期はまだ決まっていません。今の50代が60歳を迎える頃には、さらに変わっている可能性もあります。
賞与は計算に入らない
ここが人事として一番伝えたい落とし穴です。給付金の判定に使う賃金には、3か月を超える期間ごとに支払われる賞与が含まれません。60歳時点の賃金も、再雇用後の賃金も、月々の給料だけで比べます。
つまり、月給はあまり下がらないのに賞与がなくなったケースでは、年収は大きく減っても給付金は出ません。仮の例で比べてみます。
| 60歳時点 | 再雇用後(例1) | 再雇用後(例2) | |
|---|---|---|---|
| 月給 | 40万円 | 32万円 | 24万円 |
| 賞与(年間) | 160万円 | なし | なし |
| 年収 | 640万円 | 384万円 | 288万円 |
| 月給の比率 | 80% | 60% | |
| 給付金 | 支給なし | 月2.4万円 |
数字はすべて仮の例です。給付金には支給の上限額などの細かい条件があるため、実際の額はハローワークや勤務先で確認してください。
例1は年収が4割減っているのに、月給が80%残っているため給付金の対象外です。「給付金があるから大丈夫」と考えている人ほど、自分のケースを先に確かめておく必要があります。
下がりすぎは違法になるか


「仕事は同じなのに、ここまで下げていいのか」という疑問を持つ人もいます。結論から言うと、再雇用で賃金が下がること自体は違法ではありません。ただし下げ方によっては不合理な格差と判断される可能性があり、実際に裁判で争われています。
同一労働同一賃金の考え方
正社員と、有期雇用やパートの社員との間で、不合理な待遇差をつけることは、パートタイム・有期雇用労働法で禁じられています。定年後に有期契約で再雇用された人も、この考え方の対象です。
ただし、賃金は項目ごとに目的が違うため、基本給、手当、賞与をそれぞれ別に見て判断されます。定年後の再雇用であることも、判断の事情のひとつとして考慮されます。
賞与の不支給が争われた判決
2018年6月の長澤運輸事件の最高裁判決では、定年後に再雇用された乗務員に賞与を支給しないことが争われました。最高裁は不支給を不合理とまでは言えないと判断しましたが、その理由はこの事件に固有の事情の積み重ねです。
- 定年時に退職金が支払われていた
- 年金の報酬比例部分が出るまで、会社が調整給を払う予定だった
- 年収が定年前の約79%に保たれていた
今の50代は60代前半に年金の報酬比例部分を受け取れないため、同じ理屈がそのまま当てはまるとは限りません。一方でこの判決は、精勤手当を支給しないことと、それを残業代の計算に含めないことを不合理としました。再雇用なら賞与や手当をなくしてよい、という判決ではない点に注意してください。
基本給の減額が争われた判決
2023年7月の名古屋自動車学校事件では、再雇用後の基本給が定年時の半額以下に下がったことなどが争われました。一審と二審は、基本給が定年時の60%を下回る部分などを不合理な格差だと認めていた経緯があります。
最高裁は、基本給と賞与の性質や支給の目的を十分に検討していないとして、審理を名古屋高裁に差し戻しました。差し戻し後の2026年2月、名古屋高裁は基本給が定年時の55%や57%を下回る部分を違法とし、約336万円の賠償を命じています。
何割を下回ると違法になるかは、仕事の中身や賃金の性質、労使の話し合いの経緯によって変わります。一律の基準が決まっているわけではない点に注意が必要です。
差戻審の判決について、上告の有無や確定したかどうかまでは確認できていません。裁判例は個別の事情にもとづく判断であり、同じ条件なら同じ結論になるとは限りません。実際のケースについては、勤務先や専門家にご確認ください。
60歳前に確認したい点


再雇用の条件は、定年の少し前になって初めて示されることが多いものです。しかしその時点では、準備に使える時間がほとんど残っていません。50代のうちに、自分で確かめられることは先に確かめておくのが、人事として勧めたい動き方です。
就業規則と再雇用規程
まず、自分の会社の就業規則と、再雇用者向けの規程を読みます。賃金の決め方、賞与の有無、勤務日数や時間の選択肢は、たいていここに書かれています。
就業規則は社員に周知することが会社に義務づけられているので、社員であれば読めるはずです。定年の説明を待たずに一度目を通しておきましょう。
60歳時点の賃金と賞与の実績
給付金の判定には、60歳になる前6か月の賃金が使われます。残業代は含まれ、賞与は含まれません。直近の給与明細で、基本給と手当の内訳、賞与が年収に占める割合を確認しておくと、再雇用後の年収を試算しやすくなります。
仕事内容と勤務日数
再雇用後に同じ仕事を続けるのか、担当が変わるのかも大事な確認点です。フルタイムか短時間勤務かによって、給料だけでなく社会保険や雇用保険の扱いまで変わります。週20時間未満になると雇用保険から外れ、給付金も受け取れません。
条件を示されてから慌てないよう、上司や人事に聞ける範囲で早めに情報を集めておくのが安心です。
社会保険料はすぐ下げられる
60歳以上の人が定年で退職し、1日も空けずに再雇用された場合、会社は再雇用した月から下がった給料に合わせて標準報酬月額を決め直せます。標準報酬月額は、社会保険料を決める基準の額です。
通常の見直しでは数か月分の給料を見てから保険料が変わるため、しばらくは高い保険料が続きます。この手続きを使えば手取りの落ち込みを和らげられますが、将来の厚生年金の計算に使う額もそのぶん下がります。手続きするのは会社なので、再雇用のときに人事へ確認してみてください。
50代のうちにできる備え


再雇用の条件そのものは、個人の力で大きく変えられるものではありません。だからこそ、60歳の時点で「再雇用を選ぶかどうか」を自分で決められる状態にしておくことが大切だと考えています。私自身も、人事として再雇用の現実を見てきたからこそ、再雇用に頼らなくてもいい準備を進めています。


再雇用後の収入で家計を試算
最初にやるべきは、再雇用後の年収で家計が回るかを確かめることです。住宅ローンや子どもの教育費が60歳以降も残る場合、2割減、3割減でも生活は大きく変わります。
自分で計算するのが難しければ、FPに一度試算してもらうのも手です。給与、退職金、年金の受け取り時期まで含めて整理すると、何年分の不足が出るのかが見えてきます。
社外での市場価値を確かめる
再雇用以外の選択肢を持っておくことも、備えのひとつです。転職するかどうかは別として、自分の経験が社外でどう評価されるかを50代のうちに知っておくと、判断の材料が増えます。
転職エージェントに登録して話を聞くだけでも、今の会社に残る理由がはっきりするかもしれません。


給料が下がる前に資産形成
再雇用で収入が下がると、そこから積み立てに回せる金額も減ります。収入がピークにある50代のうちに、新NISAなどで資産形成を始めておくことが、60歳以降の余裕につながるはずです。


持株会に入っている方は、再雇用で続けられるかどうかも確認しておいてください。退職すると退会になるのが原則ですが、再雇用なら継続できる会社もあります。


よくある質問


再雇用の説明の場で聞かれやすいことを中心にまとめました。会社ごとの規程で答えが変わる質問も多いので、一般的な考え方として読んでください。
再雇用を断ることはできるか
断ることはできます。定年を65歳未満にしている会社には65歳までの雇用を確保する義務がありますが、働くかどうかを決めるのは本人です。定年で退職し、転職や独立を選ぶ人もいます。
再雇用してもらえないことはあるか
2025年4月からは、会社が基準を設けて継続雇用の対象者を絞れる経過措置が終わりました。原則として、希望する人は全員が65歳まで継続雇用の対象です。ただし就業規則の解雇事由や退職事由に当たる場合などは、例外になり得ます。
再雇用の条件はいつ示されるか
説明の時期は会社によって異なります。早めに知りたい場合は、規程を確認したうえで人事に問い合わせてみてください。
退職金はどうなるか
多くの会社では、60歳の定年時に退職金が支払われます。再雇用後の期間に退職金が出るかどうかは会社の規程によるため、あわせて確認が必要です。
60代前半に年金はもらえるか
いまの50代は、繰上げ受給をしない限り、65歳にならないと老齢厚生年金を受け取れません。60代前半は、給料と給付金、貯蓄で暮らすことになると考えておきましょう。なお繰上げ受給をしながら給付金を受け取ると、年金の一部が止まります。2025年4月以降に60歳になった人は、最大で標準報酬月額の4%です。
給付金は自分で申請するのか
原則として、会社がハローワークに申請します。本人が申請することも可能です。会社が手続きする場合も、本人の署名や同意を求められる場合があると覚えておいてください。
65歳以降も働けるか
会社には、70歳までの就業機会を確保する努力義務が課されています。ただし義務ではないため、65歳以降の働き方は会社によって大きく異なります。
まとめ


再雇用で給料はどれくらい下がるのか。公的な調査では平均的な人で約2割減ですが、定年年齢や会社の規模、賞与の扱いで下がり幅は大きく変わります。給付金も縮小し、賞与は給付金の計算に入らないため、年収で見ると想像以上に減るケースも珍しくありません。
- 60歳以降の賃金は平均で約2割減
- 60歳定年や大企業ほど下がりやすい
- 賞与の扱いは会社で大きく違う
- 給付金は最大10%に縮小
- 賞与は給付金の計算に入らない
- 50代のうちに規程と家計を確認
条件が示されてから考えるのでは、選べる道が限られてしまいます。まずは就業規則を読み、再雇用後の収入で家計を試算するところから始めてみてください。
不安が数字になれば、打つ手も見えてきます。一人で計算しきれないときは、専門家の力を借りるのも一つの方法です。
退職後の健康保険をどうするかも、あわせて考えておきたいところです。


そもそも人事がどんな仕事をしているのかは、別の記事にまとめています。


定年より前に来るのが役職定年です。55歳前後で何が起きるかは、こちらにまとめました。


